かつては夏の時期に日本の山野には日本原種と言われる左から山百合、笹百合、姫ユリ、鹿の子ユリ、乙女百合等が咲き乱れていたことでしょう。このユリのまつわる語句の何と多いことか…身近には「小百合」「百合子」…「姫ユリ部隊」「姫ユリの塔」…歌には「黒ユリの花」。地名には「百合ケ丘」…古来より有名な慣用句では『楚々とした日本女性の美しさを花に例えて=立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿はユリの花」。このようにユリが如何に生活に密着していたかがうかがい知れますね。
 日本から世界に目を移すと何とユリは100種以上も分布するそうです。さらに日本と同様にユリは神聖なものとされ、キリスト教では聖母マリアの象徴がユリ。西洋の家紋にも多く使われていたようです。中世イタリアのフィレンツェもユリ。エーゲ海のクレタ文明のクノッソス宮殿跡の壁画にも描かれていた、とのこと。また神奈川県のマークにも、某有名女子校にも山百合を図案化したものが使われています。洋の東西を問わずユリには特別の思いがあったのかもしれません。
 左上の写真の山百合の球根は2015年の秋に中野四季の森公園で偶然出会った植木市で購入したものです。その時に気になったことを店の担当者に聞きました。「今、山百合は乱開発で失われているけれども、この球根はどこから?」「今は一つの球根の一弁、一弁を植え直して増やしている」と。まあ、一応、納得したので手に入れた次第です。
 実は数十年も昔に球根を手に入れて植えたのですが花が咲いたのは1年目だけ。次の年は消えてしましました。かわいそうなことをしました。土が合わなかったのですね。しかし、この時は買ってしまいました。翌年に見事な花が着きました。一つの球根から六輪の美しい花が……最近は野生の山百合等をとんと見なくなりました。そこまで自然環境が失われてきているのですね。悲しいことです。

 ユリに関する和歌を探してみました。

夏の野の茂みに咲ける姫ユリの 知らぬ恋は苦しきものぞ  万葉集 大伴坂上郎女(いらつめ)
現代語訳(夏の野の茂みにひっそりと咲いている姫ユリの花よ その花のように人知れずあなた様を思っている恋は何と苦しいものか)

深々と 人笑ふ声すなり 谷一面の 白ユリの花           北原白秋
(山深い道を分け入って見晴らしのいいところに出た。ふと気づくと遠くから人の笑い声が聞こえてくる。目を凝らすと何ということだろう。谷一面に白百合が咲いているではないか)

山百合の 自ずからなる花の香も 杉の戸もれて 清(さや)き 月夜か 加納諸平
(夜、山百合の花の香りが杉の戸の隙間を通して漂ってくる。その香りに誘われて庭に出てみて気付いた。何とすがすがしい月夜ではないか)

 思ったよりもユリに関する和歌は多くありませんでした。
 町内で見られる身近のユリは白百合、鹿の子ユリ、あとは西洋ユリのカサブランカでしょうか。

【文・写真】戸引 一博