今回は取り上げるのは「福寿草」。
 植物で、このようにめでたい名前の付いた花はそうそうないでしょう。「福」と「寿」の文字が使われて。幸せが二倍になるように何だかうれしくなる花ですね。
 「福寿草」は年末から新年にかけて正月にふさわしい花として鉢植えで花屋の店先に並びます。ただし、これはハウス栽培。本来は2月(旧暦の正月)から3月に雪の中から蕗の薹のようなかわいらしい芽を出す早春の花。旧暦の正月に、冬から真っ先に早春にバトンを受け取るという理由で「福」と「寿」を冠した新年を飾る縁起の良い花、とされたようですね…別名を元日草。寿草。朔日(ついたち=元旦)草……
 不思議なことに万葉集などの古典文学作品の中には、とうとう見つけられませんでした。一般に「福寿草」が世に登場するのは江戸時代初期。正月を祝う床飾りに用いられたようです。江戸時代の俳句などにやっと登場してきます。
 「福寿草」は根に利尿作用があり漢方薬として用いられますが、誤って摂取すると毒性が強く死に至ることもある、と。西洋ではギリシャ神話にも登場し、イノシシに刺殺された美少年のアドニスの名がつけられ「悲しき思い出」という花言葉があるそうです。
 洋の東西ではこんなに「福寿草」の扱いが違うのですね。

 様々に調べては見たのですが「福寿草」に関する文学作品は極めて少なかったです。
 そこで著名な歌人の短歌一首と、俳人の微笑ましい俳句を数句挙げてみました。三句の俳句には思わずうなりました。

朝日かげさしの 光のすがしさや 一群だちの 福寿草の花   島木赤彦

ふと笑ふ 夫婦二人や 福寿草       正岡子規
ダイヤ買はず 福寿草買ふ 年の暮れ    山口青邨
ボーナスの 無き我が前に 福寿草     鷹羽狩行
なにもなき 床に置きけり 福寿草     高浜虚子
福寿草 十花燐たる 鉢一つ        水原秋櫻子

【文・写真】戸引 一博