もう、お彼岸も間近。今回はそれに合わせて曼珠沙華(=ヒガンバナ)をテーマにしてみました。曼珠沙華は町内で街路樹の下、道路わきの植え込みの隅にも見られます。不思議な立ち姿の花ですね。茎が一直線に伸びその上に花が…まさに次の俳句そのままです。

くれなゐの 冠いただき 曼珠沙華     鷹羽 狩行

《曼珠沙華(ヒガンバナ)の不思議で、驚きの話》
 花は咲いていますが葉は見当たりません。私は葉を見たことはありませんが花が終わると、右のような葉が出るそうです。知りませんでした。曼珠沙華は梵語でマンジュシャカといい「天上の花」を意味している、と。ギリシャ神話で海の女王「リコリス」と呼ばれ、洋の東西を問わず「神聖な花」と位置付けられていたようです。
 しかし今の私たちが思い浮かべるイメージは逆のケースが多いようですね。やはり古来よりヒガンバナ(あの世の花)のイメージが強いのでしょう。昔、日本では死人花、地獄花、幽霊花…気の毒なくらい不吉な名前を付け、他の花と差別化をはかっていたようです。かつては田んぼのあぜ道に、墓地等によく見られました。実は理由があります。この花は全草有毒で、これを通常で食すと時には死に至るほど、と言われています。アルカロイド系の毒で、あの猛毒で有名なトリカブトにも含まれる毒と同じです。虫が、小動物が近寄らないように、という説があります。しかし昔は人を救うために植えられた、とも言われています。
 有毒なヒガンバナですが飢饉の時の救世主になったとも……実はヒガンバナは繁殖力が強く気候に左右されないこと。有毒な根には良質なデンプンが含まれているそうです。飢饉のときに当時の人たちはこの根を潰し、数日、水に晒し後に食した、と。近くは第二次世界大戦の時に救飢植物として非常時に食用にされたこともあったと聞きます……曼珠沙華の毒は水溶性で、このように下処理すれば問題ないということです。生きるという執念が生んだ古来よりの知識なのですね。
 またヒガンバナを食す知恵と同様に、フグの猛毒の卵巣を3年間、塩と粕漬け、糠漬けで無毒化し、美味な食品(石川県だけの名産)として販売できるようにしたのも通常では考えられない話。まさに先人の知恵には驚きです。左の写真がその品物です。

 すみません。猛毒を食す話からそれてしまいました。
 曼珠沙華を歌いこんだ和歌を探してみました。万葉集に一首。

道の辺の 壱師(いちし)の花のいち白く 人知りぬ 我(あ)が 恋妻は 柿本人麻呂巻11 2480
現代訳(道のほとりに咲く鮮やかな曼珠沙華(ヒガンバナ)。その花がはっきりと目立つように我が愛する妻のことがとうとう世間に知られてしまった。ずっと心にしまっていたのに…)
[注]壱師の花(灼熱のような花) いち白く(著しくはっきりと):「壱師の花」については諸説あり。最近では曼珠沙華とする考えが定着しているようである、と。

【文】 戸引 一博