tsubaki1 本格的な春が、もうそこまで来ていますね。「木」偏に「春」で「椿」。これは国字です。早咲きの「椿」は梅が咲く前から咲きはじめ、鮮やかで、また、様々な色で私たちの目を楽しませてくれます。冬枯れの中でひと際、存在感ある花です。奈良時代の古事記、出雲風土記、万葉集にも載っており、古来より神聖な樹木であり、春の象徴の花が「椿」だったのかもしれません。特に近世からは茶道の茶花として貴ばれ、改良されてきたようです。しかし、武士道との兼ね合いで武士からは、花が首から落ちる花、ということで忌み嫌われた、といわれましたが、どうもこの話は幕末の頃から、という説もあります。豊臣秀吉や徳川秀忠などにも珍重され、江戸時代から町人には大いに好まれ様々な品種が栽培されてきました。
 椿と似ている花は山茶花(さざんか)。11月には咲き始めます。この二種類の違いは散る時の佇まいでしょう。椿は散らずに花のまま落ちる。山茶花は花弁が散ります。これが一番単純な見分け方です。
tsubaki2 さて私は花も好きですが椿と言えばやはり椿餅《俵形にした道明寺餅が椿の葉で上下挟まれた和菓子が思い浮かびます。ただし、道明寺餅は江戸時代のもので、平安時代は普通の餅に甘ズラ(=つる性植物から採れる甘い汁)をかけ、椿の葉に挟んだ素朴なものと思われる。》ですね。これを機会に椿餅を調べてみました。何と源氏物語に載っているそうです。「椿い餅、梨、柑子(みかん)…若い人々(蹴鞠をした後で)…そぼれ、とり食う(はしゃぎながらとって食べる)」(若菜上)。和食が無形文化遺産として世界遺産に登録されましたが、和菓子も当然、入るべきと思っています。自然を、四季の美しさを菓子に愛おしく取り入れる文化。自然美を愛する古来よりの日本人の繊細な感性、畏敬の念が食を通して再現される。春は椿餅、鶯餅、桜餅、草餅……夏は水ようかん、葛桜、葛きり…秋は栗羊羹、栗鹿の子、栗きんとん…冬は柚子饅頭、花びら餅……おっと、すみません。椿餅から脱線してしまいました。ただ、それほど四季の自然と和菓子は密接な関係で結ばれているのですね。
 さて、話を「椿」に戻します。「椿」起源の資料を読んでいたら中国では海榴、海柘榴とかかれているものも……「海」と書かれているので日本から海を渡ってきた、という説もあるのですが国際的には認められていないようです。中国では山茶と表記されているようですね。1月には町内で咲き始めています。是非、これを機会に見てください。

「椿」を詠み込んだ万葉集は9首ありますが、どうもわかりやすく、心に響く歌はありません(すみません。独断的な書き方で…)。今回は中学校の教科書に掲載され、情景描写にも優れた近代俳句、短歌からご紹介します。

赤い椿 白い椿と 落ちにけり                  河東碧悟桐

山寺の 石のきざはし(階段) 下りくれば 椿こぼれぬ 右に左に  落合直文

 みずみずしく厚みのある葉から、鮮やかな色で、萌え出ずるように咲き誇る椿。この花から春の生命力を古の人は感じ取ったのでしょう。

【文・写真】 戸引 一博