nadesiko1←上鷺宮1丁目にて

一昨年、秋の七草でご紹介したことがありました「撫子=なでしこ」。
今回はこの「撫子」をテーマにしました。
撫子と言えば一番、馴染みのある語句として「大和撫子」が思い浮かぶでしょう。これは古来の日本女性の内面の強さ、美しさ、気高さ等に対する尊崇を込めた言葉と私は認識しています。しかし、私はかつて、この大和撫子はすでに絶滅危惧種…と思ったことがありました。そうこうしているうちに、5.6年前「撫子」という言葉が日本中を席巻しました。忘れて久しい、この言葉が…それはワールドカップで世界を制覇した女子サッカーの「ナデシコジャパン」という呼称。何となくこの言葉に深層心理の中で郷愁を持っていた日本人にスーっと入っていったのでしょう。かつての嫋(たお)やかな「大和撫子」から屈強さを兼ね備えた現代版「大和撫子」へ推移した彼女たちを抵抗なく受け止めたのでしょう。昨今は「撫子」の概念が広がり、アニメの主人公やロックのヘビーメタルグループ名にも使われているようです。時代は変わりました。
 話を戻すと左上の写真の花が万葉時代の在来種の「川原撫子」です。これを古来から「大和撫子」とも言うようです。現在は6月あたりから背の高い(茎の長さが40cm~50cm前後)この「川原撫子」が花屋の店頭に並ぶことがあります。それに対して、唐撫子、西洋撫子=(石竹、常夏とも表記)は結構、季節も長い期間、品も多く店頭に並んでいます。nadesiko2背丈はせいぜい数センチで花は小さく原色が多い。右が「大和撫子=川原撫子」の花を図案化した家紋の数々です。藤の花の時にもご紹介したように日本の家紋は花鳥風月、神羅万象を図案化する世界に冠たる芸術的センスがありますね。今回調べていて「撫子」の家紋は今回初めて知りました。
 「撫子」は多年草でフラワーポットでも育てられます。また、種子がとれますので蒔くと増えていきます。私は断然、川原撫子の色、形、風にそよぐ姿……が大好きです。店頭に並んでいれば一鉢、買い求めます。秋の七草の中でも一番好きです。
 さて、万葉歌人たちは、この嫋やかな撫子の花をいかに歌いこんだのでしょうか。ご紹介します。

万葉集:野辺見れば 撫子の花 咲きにけり 我が待つ秋は 近づくらしも
                           詠み人未詳  巻10の1972
現代語訳(野原に出てみると撫子の花が咲き始めた。私が待ち望んでいた秋が近づいてきたことに間違いない。)

万葉集:撫子が その花にもが 朝な朝な 手に取り持ちて 恋ぬ日なけむ
                           大伴家持  巻3―408
現代語訳(あなたがこの撫子の花であったらいい。そうすれば毎朝、毎日、手に抱いて恋しく思わない日はないだろうに。愛しいあなたよ。)婚約者の坂上大嬢(さかのうえおおいらつめ)に贈った歌

 他に調べてみると「枕草子」にも載っていて「草の花はなでしこ 唐のはさらなり 大和のも いとめでたし…」とあり、(草の花は撫子が美しい。唐のものは言うまでもない しかし、特に大和撫子は大層すばらしく、うつくしい)当時から「川原撫子=大和撫子」は中国産とは区別し貴族にも愛されていたようです。どうやら中国からナデシコ属の外来種が渡ってきました。石竹として園芸化され、平安時代に渡来し四季咲きのような種類で別名:常夏とも呼ばれました。この影響でしょうか。
 源氏物語の巻名に「常夏」が……「撫子」の花言葉は純愛、いつも愛して、思慕、貞節、女性の美等、女性的なイメージが強いですね。
 あえて「大和撫子=川原撫子」に花言葉を特化すると、可憐、貞節、とあります。洋の東西問わず、上品な色で美しい立ち姿の「撫子」への思いは共通しているようですね。

nadesiko3 左の写真はスイスの温暖化の影響が著しく毎年、後退を続けているモルテラッチ氷河の脇に咲いていたベルクフロッケンブルーメという「撫子属」の花です。2013.9、花の時期は過ぎていましたが、色も姿も「川原撫子」そっくりでした。この花に出会えた時、うれしくなると同時に、まさか、このような異国の地で会えるとは、と、不思議な気持ちになりました。
 因みに「撫子」はヨーロッパで聖なる花として教会に飾られると言います。

【文・写真】 戸引 一博