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 昨年の8月。この「万葉花だより」で「秋の七草」をご紹介しました。その項で日本古来より七種の花を総花的に書きましたので広く浅くという内容になってしまいました。そこで今回は秋の「七草」の中で町内、どこでも必ず目にすることができ、いにしえの古典などに多く登場する「萩」の花を改めてご紹介します。
 万葉集で花を詠み込んだ歌の中で、「萩」の花が最多の142首だそうです(ちなみに二位は梅の119首)。個人的には秋の七草の中で好き花は、撫子、女郎花、尾花、葛の順で、萩はその次。また、大好きな梅が「萩」の後塵を拝しているのには納得がいきませんが、まあ古人の美意識が「萩」の密やかな佇まい、秋雨にこぼれる儚さに心惹かれたのでしょうか。そういえば「萩の花」の絵柄が桃山時代の有名な屏風襖絵(智積院:長谷川等伯の楓図:下の写真=ネットの「智積院襖絵、日本の歴史」より。右端に秋草の描写も)等にも、また工芸品(蒔絵箱)等にも描かれています。hagi02やはり昔から「萩」は広く好まれ続けていたのですね。因みに「萩」という「草かんむりに秋」の字は和製漢字(国字)。字にも趣があります。さらに「萩」に対する当時の庶民生活の中からみていきましょう。

 「萩」は中秋の名月にススキと月見団子と共に月に供えられ、また、あの花札にも登場。「萩」は根を煎じて飲むと、目まいや、のぼせに効くと…また枝や葉は家畜の飼料や屋根ふきの材料に…さらに「おはぎ=お萩(秋のお彼岸に供え食される)」「ぼたもち=牡丹餅(春のお彼岸に供え食される)」というように食べ物と年中行事にも昔から現代につながり日常生活に定着しているものが多いです。「萩」って結構、奥深い。改めて今うなずいています。
 そうそう、本題に戻しましょう。

 次に紹介する和歌は万葉集。その万葉集の素晴らしさは4500首余りの中に、当時の様々な階層の人々の思いが素朴に詠み込まれている、もっとも味わい深く魅力的な歌集だと私は思っています。その中で、「萩」を詠み込んだ大好きな歌があります。『え?多くの人が秋の花は「萩」というけれども、私は撫子が好き!!』これは私の思いですが………この様に万葉人の中で、「萩」への強い声に流されることなく、別の角度からの自分の視点をはっきりと述べる、この姿がたまらなく愛おしい歌です。
 そうです。今から2年前に町会のホームページが立ち上がり、このコラム「ふるさと万葉…」が登場した2013.10の初稿にも次の歌を乗せました。私は、この潔さが好きなので、あえて、「萩」が詠みこまれていることもあり、もう一度、載せます。

万葉集   人は皆 萩は秋と言ふよし 我は尾花が 末を秋とはいはむ   詠み人知らず

現代訳《世の人は萩が秋の花の中で一番趣があるよ。というけれども私は尾花(ススキ)が秋の代表の花と言おう。》

 奈良時代の当時から「え?萩が秋の花の代表?私は違うけれども…」という人がいたんですね。その素朴な思いを詠み込んだ和歌です。いいですね。皆がそういうけれども私は違う。私はこう思う。このような潔さが万葉集の中にはたくさんあります。

 最後に万葉集の中から「萩」への思いをわかりやすく詠み込んだ歌を2首紹介しましょう。

この頃の 暁露に我が宿の 秋の萩原 色付きにけり     詠み人知らず

現代訳(この頃 私の家の庭に広がって咲き始めた萩の花が色づき始めてきました。美しく……)

我が背子が 宿なる萩の花 花咲かむ 秋の夕べは 我を偲ばせ  作者:大原今城(いまき)

現代訳(私のあなた その家の庭の萩の花が咲きましたね この秋の夕べには どうぞ萩を愛でながら私のことを偲んでください。愛しいあなた。)

 昨今、早咲きの萩はもう6月に……また私の好きな大好きな撫子(日本古来からの原種の撫子は川原撫子)も6月初旬には大きな花店に並んでいました。万葉の時代から1300年近く。当然、気候も変わり花の種類によっては開花時期に影響を与えてきたのですね。心地よい時期の春が…爽やかな秋が次第に失われてきている今、温暖化が確実に進んできている悲しく、恐ろしい現実ですね。最近の環境報道に2050年以降の日本の秋はクリスマスの時期に移っていく、と。つまりあの美しい紅葉が12月24.5日になってしまうと……

 今、我々が、子孫のために環境に優しいことを、具体的に何をするかが思案のしどころです。小さなことでも一人一人、何かできることがあるはずです。遥か昔から偉大な自然に抱かれながら生きてきた我々人類が、次の世代へ、美しく尊い素晴らしいこの地球環境をつないでいく責務があります。この項を通して痛感しています。

 【文・写真】 戸引 一博