秋来(き)ぬと 目にはさやかに 見えねども 風の音にぞ 驚ろかれぬる
                         古今和歌集より 藤原 敏行

 意味(秋が来たなあ…と、目には、はっきり見えないけれども、心地よくかすかに吹き抜ける風に、はや秋の兆しに驚かされることだ)

 暦の上では立秋が過ぎましたが、初秋とは名のみ。昨今はこの時期になっても酷暑、猛暑、狂(?)暑……夏の暑さはここ30数年来、ますます酷くなっています。鷺宮でも私の子どもの頃は(60年近く前)、真夏でも夜になると雨戸を開けっ放しで蚊帳(かや)をつり、 夜風で充分、寝付けました。夏休み早朝。町内のラジオ体操は肌寒いくらいでした。さらに夕立は夏の夜の一服の清涼剤でした。 「夏は夜(=夏は夜がとても趣がある)…中略…雨など降るもをかし(夜、雨が降るのも、周囲をしっとりと心地よくさせるので風情がある)…」 。
 半世紀以上前の上鷺宮近辺には、平安時代の枕草子の世界が少しは残っていました。不思議ですね。たかだか戦後半世紀余りで千年以上も 大切にしてきた日本の自然が、風情が、伝統が、年中行事等が失われてきているのですね。多分、父母、祖父母の時代(大正、昭和初期)の上鷺宮近辺(特に上鷺宮4、5丁目:八成公園一帯には武蔵野の面影残る広い雑木林がありました)は、古典文学の中での自然環境がひっそりと息づく世界があったのでしょう。
 そこで、今回のテーマは、これからの季節に合わせて「秋の七草」。それをご紹介しましょう。

 [1]秋の野に 咲きたる花を 指折りかき 数ふれば 七草の花 [万葉集 巻八 1537]

 [2]萩の花 尾花、葛(くず)花、撫子(なでしこ)の花
    女郎花(おみなえし)また 藤袴(ふじばかま)朝顔の花 [万葉集 巻八 1538] 山上憶良

 季節の花に出会うにつけ、四季ある国に生まれた喜びを感じます。今回取り上げるのは「秋の七草」。 上の二首目の万葉集の歌は有名で、憶良が「秋の七草」を見事に詠み込みました。覚えやすいですね。 実は昨今、「秋の七草」を目にすることが少なくなってきましたので本稿で紹介いたします。

nadeshiko hagi fujibakama
撫子
上鷺宮1丁目

上鷺宮2丁目
藤袴
上鷺宮2丁目
susuki kikyo
尾花=ススキ 朝顔=桔梗
kuzu ominaeshi
女郎花

 写真、上段の左から「川原(かわら)撫子」(日本古来の淡い上品な桜色の花で、和歌などの古典文学に登場する花。 茎は60cm位。近頃、花店の店先に撫子、石竹と表示され、小さく濃い赤、ピンク等で丈が短い花は西洋撫子で、日本古来の美しい撫子とは異なりま す)。 真ん中は、よく見かける「萩」、右は地味な「藤袴」。中段左は言うまでもなく「尾花」(=ススキ:この花は昨年10月に本稿 のNO.1本稿 のNO.1で掲載済み)、 右は「朝顔」(=「桔梗」)「秋の七草」で「朝顔」と万葉集にありますが、これは桔梗のこと、というのが定説です)。 ここまでの5種類の花は上鷺宮近辺で見られます。ただし「撫子」、「藤袴」、「朝顔」(=桔梗)の三種は、当然、現在では鉢植え、プランターの中で細々と小さな世界で生き続けているのみです。かつては野趣豊かな山野という大舞台で広く繁茂していたのですが…… この三種類に関しては大きな花店で、今、鉢植えとして手に入ります。また「尾花」、「萩」は八月前後から咲き始め、町内のそこここで見ることができます。 下段の2種類の花は、特に山、野原を中心とした場所にしか咲きません。ただ、右の「女郎花」は、秋に花店で切り花として買うことができます。 左は「葛」(蔓状の植物で木などに絡みつき、その根は葛餅、葛桜、葛きり等、和菓子に使う時の原料になります:ただし昨今、純粋な葛粉は激減し、 そのほとんどは芋のでんぷん、こんにゃく粉等で代用しているとのこと)です。「秋の七草」の中では、この「葛の花」だけは都会人が目にすることは極めて稀でしょう。花店でこの花だけは売っていません。

 ところで私は個人的に「撫子」「萩」「葛」を詠み込んだ和歌、短歌が好きです。 「秋の七草」について万葉集などに素晴らしい歌がたくさんありますので機会を改めてご紹介いたします。

[注]お気づきの方もいらっしゃるでしょうが、今年、上鷺宮、鷺宮地区で秋の七草の「川原撫子」、「萩」が何と6月1日には、もう咲き始めて いました。 しかも、近くのある大型店の花屋には5月末、すでに川原撫子が咲いた状態で販売されていたのです。旧暦は季節の移ろいが現代より目安として1ヶ月は早いと思ってよいでしょう。昨今、それでも季節の訪れがおかしくなりました。特に春と秋の穏やかで心地よい時期が失われ始めました。温暖化の影響が顕著ですね。 NO.6「柘榴の花」の開花に至っては驚きました。今年、開花が上鷺宮地区で1本の柘榴の木が5月の連休明けには既に咲き始めていました。 万緑ではなく新緑のなか…という状況です。ただし、OKストア脇の柘榴の花は6月1日に一輪咲き始めました。本来は6月の入梅時期なのですが… … …
このように花による季節感も前倒しの様相がさらに恒常化してくるのでしょうね。寂しい気持ちと自然環境破壊への不安を強く感じる昨今です。

【文・写真】 戸引 一博