shidarezakura上鷺宮2丁目の枝垂れ桜

 上鷺宮地区で桜の開花と言えば上鷺宮2丁目近辺の植木場等にある河津桜が、まず先駆けとして3月の初旬に花を咲かせます。 そして3月末から4月初旬にかけて首都圏は満開になります。さて上鷺宮地区の桜の名所を紹介しましょう。 まず、旧マリンハイツ(現在マンション建設中)の東側の桜並木(数年前から木が傷み、空洞化が進み、やむをえず伐採、代わりに桜の若木を植樹す るという状況)。 圧巻なのは上鷺宮3丁目の千川通りの桜。本稿のNO1でも書きましたが、現在は千川が暗渠に変貌し、かつて千川の土手に植えられていた桜並木 が 今の姿です。 この桜並木は70年ほど前には椎名町まで続いていたそうです。私は上鷺宮3丁目の、この桜並木の1本目から練馬駅付近まで本数をかぞえてみました。 千川通りと新目白通りが交差するところまでで200本余。実はこの先、断続的にではありますが江古田駅あたりまで桜並木が見受けられます。 ついでですので上鷺宮地区から自転車で行ける桜の名所をそっと、お教えしましょう。

[1] 富士見台駅から中村橋駅さらに練馬駅付近まで続く千川通りの桜並木
[2] 豊島園沿いの石神井川桜並木(約4キロ近くはあるでしょう。板橋区城北中央公園付近まで続きます)
[3] 新青梅街道(沼袋)~哲学堂付近の中野通~新井薬師~中野駅
[4] 善福寺川桜並木(阿佐ヶ谷~青梅街道から南へ自転車で5分くらいにある川沿いの桜:個人的には車の心配がない、しかも善 福寺川を両岸から包み込むような桜のトンネルが好きです)
[5] 石神井公園と三宝寺池(高野台付近石神井川沿いから石神井公園に続く桜並木もビューポイント)

sakura石神井川の桜

 このくらいでしょうか。かつて(60年位前)は鷺宮駅の南脇を流れる妙正寺川の土手にも桜並木がありました。 その微かな名残が鷺宮体育館付近の桜の古木に往時を偲ばせます。

ところで万葉の時代(奈良時代)は花と言えば梅の花、萩の花が中心でした。因みに梅を詠みこんだ歌は118首。桜は約40首。 今、我々が圧倒的に目にするソメイヨシノは江戸時代末に現豊島区駒込の染井村で大島桜とエドヒガン桜との交配による改良で全国に広まった、と言われる桜で、 万葉の時代は山桜が中心でした。この当時、サクラは農業では神としてとても大切にされていたようです。サクラの「サ」は《田の神》のこと。 「クラ」は《神坐》のこと。つまり桜の開花は秋の稔の兆しとして考えられていたようです。 いにしえの古事記に出てくる木花咲耶姫(コノハナサクヤヒメ)は桜の花の化身とされ、美の女神ともされています。こうみてくると桜はなかなか深いものがありますね。

そこで今回はこんな万葉の歌を紹介しましょう。

春雨は いたくな降りそ 桜花 未だ見なくに 散らなく惜しも

 現代語訳(春雨よ どうか降ってくれるな 私は桜の花をまだじっくりと見ていない。春雨によって散ってしまったら何と惜しいことよ)

これに似た和歌がありました。在原業平の歌です。

世の中に 絶えて桜のなかりせば 春の心は のどけからまし

 現代語訳(世の中に 桜がなかったならば 春、桜を迎えようとする人々の心は なんと落ち着いて心静かなものになるか:逆説的な歌で、  桜の存在が、「もう咲いたのか?」「散ってしまったか?」と、人の心を惑わすほど大きな存在になってしまった桜よ……という和歌)

someiyoshino上鷺宮3丁目付近の染井吉野

 それにしても桜にまつわる言葉が何と多いことでしょうか……
桜前線、桜開花予想、桜餅、桜吹雪、桜便り、お花見、花より団子、花見日和、花見酒、花筏(桜の花が散って花弁が川面に筏のように集まって流れていく様子)、花冷え、花灯(あか)り(桜の花の白さで夜、薄明りの中、辺りがほのかに明るく見えること) 、桜守(桜を守り育てる樹医のような存在)…これらの優雅な言葉は日本人の美意識あらわれですね。

最後に桜にまつわり、時代にほんろうされた悲しく、有名な和歌を紹介しましょう。
江戸時代の国学者本居宣長のものです……

敷島の 大和心を人問はば 朝日に匂ふ 山桜花

 本来、作者の素朴な桜への思いを詠みこんだ和歌と言われています。ところが時に権力者たちが自分たちの都合で解釈を曲解させ、武士道を 体現した名歌とし、桜の散り際の美しさが「もののふの道」と称賛。特に第二次世界大戦には、非情な為政者たちは桜の散り際の美を極端に利用し、名もなき兵たちにそのあるべき姿を重ね合わせ、それを強いた、許しがたい悲惨な時代でもありました。大戦末期、初めての神風特別攻撃隊の名に宣長の和歌から………敷島隊、山桜隊、大和隊、朝日隊と海軍上層部は名づけ、国民の、兵たちの戦意を高揚させるために用い死地に赴かせた、理不尽で拭いされない、憤りを禁じ得ない事実もありました。
このような時代は2度と招いてはならないですね。子どもたちにも、孫たちにも……桜は古来より、素朴で、平和で、豊穣の象徴でした。

 本来、桜は愛でるもの。目で、香りで、味覚で……愛おしむもの。
 今年は今まで以上に桜を愛でてみてはいかがですか?

【文・写真】 戸引 一博